春といえば桜、桜といえばロゼ。
(遠くで)
ブラック「ちょっとー、ちゃんと場所とったー?」
マスベリ「おう!完璧よ! てめーこそ酒は持ってきたのか?」
ブラック「ふっふっふー。抜かりはないよ。そろそろ来るんじゃないの?……ほら」
サンソー「ボンジュール! ブラッククイーンに、マスカットベーリーA!
お招きありがとう!桜が見られるなんて嬉しいよ!僕の髪色と同じだからね!親近感がわくなあ!」
グルナッシュ「この桜の下じゃあ、どれが桜で、どれがサンソーかわかんなくなっちゃうかもね」
フラン「んなわけないだろ。だいたい……ふうー、すごい人だな」
さくら「日本人は桜が好きだから。木の下に場所取りして、お団子食べたり、お酒飲んだりするの」
ジン「団子って、あの串に刺さった三色の丸いやつか! 焼いて食うのか?」
さくら「焼いて美味しいのは、三色団子じゃなくてみたらし団子の方」
ブラック「早くこっちきなさいな、待ってたんだから! ほらほら、そこ座って!」
マスベリ「なんか、珍しいメンツって思ったら、ロゼ品種ってわけか」
ブラック「あったりまえでしょ! 桜の下で、桜色のワインを楽しもうってことよ!」
マスベリ「一人女の子がいるのは……」
ジン「さっきそこで引っ掛けた」
マスベリ「おおい!」
さくら「ひっかかりました。さくらです」
ジン「ジャパンのチーズなんだってよ。まあ、俺たちのチーズ版ってこった」
さくら「丸いチーズの上に桜が乗ってる。それで、さくらって名前」
マスベリ「へー。んな奴があるんだ」
サンソー「かわいいよね! 僕もサンソーからサクラーって名前に変えようかな?」
ブラック「はいはい、サンソーでもサクラでもなんでもいいけど、はじめるよ! あんたたち、ちゃんと持ってきたんでしょうね?」
グルナッシュ「もちろん!」
フラン「本当はボトル持ってあの道のりを歩きたくなかったんだけどな。重いし、ワインもあまり揺らしたくないし」
ジン「こまけーことはいいだろ!? 今日の主役はこのピンク色のブロッサムだ。俺たちは引き立て役ってな。うっし、開けるぞー」
サンソー「僕、お腹空いたんだけど、何か食べるものある?」
ブラック「ふっふーん。このブラッククイーン様が、腕をふるって作った手料理よ! 心して食べなさい!」
グルナッシュ「うわー、美味しそうだよ!」
ブラック「美味しそう、じゃなくて美味しいの!」
マスベリ「わからねえぞ? 作ってる途中、邪魔しに行ったら、分量間違えたー!とか喚いていたからな」
ブラック「ちゃ、ちゃんと、食べられる味付けに整えたってば!」
さくら「わたしも、お弁当あります。つまらないものですが、どうぞ」
サンソー「うわー、ちっちゃいお弁当箱なのに、すごくおしゃれで華やかだね!それにとっても美味しそう!」
ジン「どれどれ。こっちの方がうまそうだな」
ブラック「なーにー、もー!! 私のだって美味しいんだから!!」
フラン「ごちゃごちゃ言ってないで、ほら、グラスだ。念のため割れにくいやつを持ってきた。騒々しいのが一人二人いるからな」
ブラック「それって私のこと!?」
フラン「おい、言ったそばから耳の横で騒ぐな。全員グラスは行ったか?……おい、グロロは」
ジン「お? 誰だそれ」
サンソー「人数はこれだけ、だよね?」
マスベリ「おい、お前、見えない何かが見えるってやつか?」
フラン「そんなんじゃない。 ……まあいい、その内ひょっこり出てくるだろ」
グルナッシュ「グロロって、フランと同じ地方のロゼ品種だよね?」
フラン「ああ。行きたそうにうずうずしてたから連れてきたんだがな。途中でふらりと何処かに行ってしまった」
マスベリ「おいおい」
フラン「いつものことだ。気が向いたらまた戻ってくる」
グルナッシュ「お料理一人分、避けておこっか。じゃあ、まずは誰のワインから飲む?」
ジン「もう開けちまったぜ! 俺からでいいか?」
マスベリ「いいよいいよー、ついじゃってくれー」
ジン「ってか、今更だけどな、俺は白ワインを作りたかったわけで、別にロゼを作るつもりはなかったから、こうやってロゼとしているのは変な感じがするぜ」
ブラック「でもそれで売れてるんでしょ? 結果オーライじゃない」
ジン「けどよお……」
ブラック「ぐちぐち言わないの! ほらほら、グルナッシュにも、さくらちゃんにもついじゃってー!」
さくら「ありがとうございます」
マスベリ「よーし、んじゃま、乾杯は日本風でやろう!」
サンソー「日本風?」
グルナッシュ「そういうのがあるの?」
マスベリ「おう! まずは乾杯の前に長々とした挨拶が入ってだな、今日はめんどくせえから割愛するけど、その後みんな立ち上がって、カンパーイの合図で、グラスをぶつけ合うんだ」
サンソー「割れちゃうよ!」
マスベリ「今日は丈夫なグラスなんだろ? よゆーよゆー。宴会のおっさんらはじゃんじゃんぶつけ合ってるぜ! んで、その場にいる全員とぶつけるまで、飲んじゃダメなんだ」
フラン「グラスをぶつけ合うのは古代ローマからある風習だが、そんな風に定着しているのか……」
ブラック「ベーリーAの言うことは、たいてい誇張されてるから、鵜呑みにしちゃダメだからね……」
マスベリ「そんで持って、飲むときは一気!」
サンソー「一気に??」
グルナッシュ「それはあんまり……」
マスベリ「そうやって男気見せんだよお!」
さくら「なんか、ダサいです。一気飲みのどこがかっこいいのかわかんない。どうせ後で飲み過ぎて吐くのに」
マスベリ「う……」
フラン「勢いで華のないことをするな。それに、じっくり味わってこそのワインだ。一気飲みなんて、作り手に失礼だろ」
マスベリ「でもサンジョベーゼのおっさんも、ワインはグイグイ飲むものだって言ってたぞ」
グルナッシュ「まあ、飲み方なんて人それぞれなんだけれどね……。僕は楽しいならなんでもいいけれど。でもさ、今日はせっかくのお花見なんだから、ゆっくり味わいながら、親睦を深めるっていうのもいいんじゃないかな」
サンソー「そうだね、このメンバーで集まることもなかなかないし。ベーリーAの言う乾杯の仕方は別の機会に取っておいて、今日は馴染みのあるやり方で乾杯しよう!」
ブラック「あんたたちの馴染みのやり方って?」
サンソー「こうやってグラスを掲げて、お互いに目を合わせて『サンテ』、もしくは『チンチン』って言うんだ」
マスベリ「ちん……」
サンソー「ん、どうかした?」
さくら「日本ではサンテの方が人目を気にしなくていいと思う」
ブラック「チン……は流石にここじゃあ大声で言えないよねえ」
マスベリ「俺は別に構わねーぞ」
ブラック「さくらちゃんがいるでしょ!」
マスベリ「うーい」
サンソー「ん……よくわからないけれど、サンテって言うことにしよっか。合図は、フラン、お願いしてもいいかな」
フラン「ああ」
グルナッシュ「じゃあ、お願いします」
フラン「(咳払い)今日、こんな形で集まり、花見ができることを嬉しく思う。 我々の健康と末長い繁栄を祈って。(ジンの「長いぞ!」というヤジが入る。)……というのは建前で腹が減ったから早く食べようサンテ!!」
全員「サンテ!」
グルナッシュ「……あのさ、さっきから気になってて、フランの後ろから視線を感じるんだけれど」
サンソー「そう言えば、黒い人影が、じっとこっちを見てる……」
フラン「はあ。やっときたか。もう始めてしまったぞ」
グロロ「フラン……」
フラン「ほら、お前の分のワインだ」
グロロ「メルシー……」
ブラック「えっと、あんたがグロロ?初めまして、……って、もうどこか行っちゃったわー」
マスベリ「全身、真っ黒だったな。あいつ、本当にロゼ品種か?」
フラン「グロロっていうのはカラスという意味だ。それを意識しているのかわからんが、ああして黒い服ばかり身につけている。ワインはもともと赤を作っていたが、えぐみがひどかったため、風味を抑えたロゼを作り始めたって話だ。同じ地方の出だからな、気にかけてやったら懐かれてしまった」
クイーン「懐かれたって……汗」
さくら「変わった方もいるのですね」
マスベリ「なあなあ、俺もうワイン飲んじまったんだけど、次誰の開けんの?」
サンソー「じゃあ、僕、開けまーす!……と、あ!!」
グルナッシュ「あ! ワインが!」
ジン「およよ。サンソーが誤って倒したワインボトルが、転がっていっちまったぜ。ここ、やや斜面になってるからな」
サンソー「うわーん、待ってよー」
マスベリ「追いかけるサンソーをよそに、ボトルはころころと……」
クイーン「おまけにサンソーまでつまづいて転んじゃってる。あーあ、仕方ないの……(追いかける)」
グルナッシュ「大丈夫? サンソー(駆け寄ろうとする)」
サンソー「ふにゃー」
アーリー「あんた、大丈夫? 立てる?手を貸そうか?(手を出す)」
サンソー「あ、ありが……」
アーリー「なーんてな。どんくさ。大の大人が、何にもないところで転んでやがる上に、半べそになってるー。かっこ悪」
サンソー「へにゃ……」
グルナッシュ「ちょっと、そんな言い方ないでしょ? しかも差し出した手を引っ込めるなんて、意地悪だよ」
アーリー「貸そうか? って聞いたけど、貸してやるなんていってないしー」
ブラック「ちょっとちょっとちょっと、アーリーちゃんじゃないのさ。相変わらず口が悪いったら」
アーリー「だーれがアーリーちゃんだクソったれ。俺はキャンベルアーリーだ。ちゃん付けするなつってんだろ。口縫い付けるぞ」
ブラック「ヤダもう、態度だけは立派なんだから。でもね、さっきのサンソーへの口の聞き方は見逃さないよ。ちゃんとあやまんなさい」
アーリー「やーだね」
ブラック「あやまんなさい!」
アーリー「うっせ、おかまのクセにー」
ブラック「だまらっしゃい!!」
グルナッシュ「まって、落ち着いて二人とも!」
サンソー「二人とも、喧嘩しないで……」
フラン「(遠くから)なんだ、あいつら喧嘩始めたのか」
マスベリ「まじかよ。ちょっと止めに行ってくるわ」
さくら「喧嘩なんて、はしたないのです」
ジン「何やってんだ、あいつら……俺もいく」
フラン「あまり騒ぎにならないうちに収めてくれ。俺は残る。……ん、なんだ、グロロ」
グロロ「これ、美味しそう」
ジン「って、おい!みんなが離れたすきについばみに来るとか、お前はマジでカラスか!」
グロロ「カアー」
フラン「手でつまむな。はしたない。ほら、フルシェットがあるから使え……」
マスベリ「いいから、てめーら、落ち着けって……」
アーリー「だーれが謝るかってんだ。俺なーんにも悪くねーし」
ブラック「あんたのその口の聞き方、前から気に食わなかったんだよ! 人に対する態度ってもんを一から叩き込んでやる!!」
グルナッシュ「落ちつこーか、ブラッククイーン。なんかキャラ変わってるよー……」
サンソー「僕のために喧嘩しないでー!」
ジン「……なんなんだ、これ」
巨峰「すみません、うちのアーリーが」
ジン「うおお!? 突然後ろに立つなよ! ってか、でかいなお前!!」
巨峰「自分のことは巨峰、と呼んでください。すみません、うちの人がとんだご迷惑を。今、回収しますので」
ジン「か、回収って」
アーリー「こんにゃろ、くたばれブラック女王が!」
巨峰「はいはい、そこまでにして、帰りましょう。ね」
アーリー「な、巨峰? ちょ、ちょっと待てよ、どこ掴んでんだよ。首根っこは引っ張るなって教えただろうが!おーい!」
巨峰「皆さん、すみません。うちの人が、大変ご迷惑をかけたようで。連れて帰りますので、どうか続きを」
アーリー「おい、てめ、巨峰!こんちくしょー! 何すんだよー! 今日こそあのムカつくブラック女王に一発かましてやろうと思ってたのにー(引きずられていく)」
マスベリ「嵐が、去ったな」
グルナッシュ「なんだったの、一体……」
フラン「おーい、落ち着いたのなら戻ってこい。早く来ないと、グロロが全部食ってしまうぞ」
さくら「すでに、もう半分以上が空に……」
マスベリ「なんだとーう!? そうはさせるかー!(走っていく)」
サンソー「……なんだか、ごめんなさい。僕のために」
ブラック「はあ……あんたが悪いわけじゃないんだから、謝んないの。頭に血が上ってた私も悪いんだから。はい、もー忘れて、続きやりましょっ、ね?」
サンソー「う、うん。そうだね」
ミモレ「あー、いたいたー。さっくらー」
さくら「あ、ミモレット姐さん」
ジン「なんだなんだ」
ミモレ「もー、こんなところにいたの? 探したんだからあ。一緒に飲むって、約束してたでしょーが!」
さくら「すみませんなのです。約束の時間より早く来てしまったから、油を売ってました」
ミモレ「ったくう。許しちゃる!」
さくら「恐れ入ります、姐さん」
チェダー「あ、あの、皆さん、ワインの人、なんですよね?」
ゴーダ「もしよければ、私たちもお花見にきたんですけど、ご一緒してもいいですか?」
ジン「(口笛)」
マスベリ「わーお」
グルナッシュ「お花が、増えたね」
サンソー「いいよいいよー! 一緒に飲もう!」
ブラック「急に元気になるじゃない。さっきまで落ち込んでたのに」
グロロ「フラン……女の子が……」
フラン「お前も、何いきいきしてるんだ、グロロ。いいから、ここで大人しくしてろ」
サンソー「じゃあ、改めて乾杯しよう! 満開の桜と、素敵な出会いに!」
全員「サンテ!」
ブラック「ちょっとー、ちゃんと場所とったー?」
マスベリ「おう!完璧よ! てめーこそ酒は持ってきたのか?」
ブラック「ふっふっふー。抜かりはないよ。そろそろ来るんじゃないの?……ほら」
サンソー「ボンジュール! ブラッククイーンに、マスカットベーリーA!
お招きありがとう!桜が見られるなんて嬉しいよ!僕の髪色と同じだからね!親近感がわくなあ!」
グルナッシュ「この桜の下じゃあ、どれが桜で、どれがサンソーかわかんなくなっちゃうかもね」
フラン「んなわけないだろ。だいたい……ふうー、すごい人だな」
さくら「日本人は桜が好きだから。木の下に場所取りして、お団子食べたり、お酒飲んだりするの」
ジン「団子って、あの串に刺さった三色の丸いやつか! 焼いて食うのか?」
さくら「焼いて美味しいのは、三色団子じゃなくてみたらし団子の方」
ブラック「早くこっちきなさいな、待ってたんだから! ほらほら、そこ座って!」
マスベリ「なんか、珍しいメンツって思ったら、ロゼ品種ってわけか」
ブラック「あったりまえでしょ! 桜の下で、桜色のワインを楽しもうってことよ!」
マスベリ「一人女の子がいるのは……」
ジン「さっきそこで引っ掛けた」
マスベリ「おおい!」
さくら「ひっかかりました。さくらです」
ジン「ジャパンのチーズなんだってよ。まあ、俺たちのチーズ版ってこった」
さくら「丸いチーズの上に桜が乗ってる。それで、さくらって名前」
マスベリ「へー。んな奴があるんだ」
サンソー「かわいいよね! 僕もサンソーからサクラーって名前に変えようかな?」
ブラック「はいはい、サンソーでもサクラでもなんでもいいけど、はじめるよ! あんたたち、ちゃんと持ってきたんでしょうね?」
グルナッシュ「もちろん!」
フラン「本当はボトル持ってあの道のりを歩きたくなかったんだけどな。重いし、ワインもあまり揺らしたくないし」
ジン「こまけーことはいいだろ!? 今日の主役はこのピンク色のブロッサムだ。俺たちは引き立て役ってな。うっし、開けるぞー」
サンソー「僕、お腹空いたんだけど、何か食べるものある?」
ブラック「ふっふーん。このブラッククイーン様が、腕をふるって作った手料理よ! 心して食べなさい!」
グルナッシュ「うわー、美味しそうだよ!」
ブラック「美味しそう、じゃなくて美味しいの!」
マスベリ「わからねえぞ? 作ってる途中、邪魔しに行ったら、分量間違えたー!とか喚いていたからな」
ブラック「ちゃ、ちゃんと、食べられる味付けに整えたってば!」
さくら「わたしも、お弁当あります。つまらないものですが、どうぞ」
サンソー「うわー、ちっちゃいお弁当箱なのに、すごくおしゃれで華やかだね!それにとっても美味しそう!」
ジン「どれどれ。こっちの方がうまそうだな」
ブラック「なーにー、もー!! 私のだって美味しいんだから!!」
フラン「ごちゃごちゃ言ってないで、ほら、グラスだ。念のため割れにくいやつを持ってきた。騒々しいのが一人二人いるからな」
ブラック「それって私のこと!?」
フラン「おい、言ったそばから耳の横で騒ぐな。全員グラスは行ったか?……おい、グロロは」
ジン「お? 誰だそれ」
サンソー「人数はこれだけ、だよね?」
マスベリ「おい、お前、見えない何かが見えるってやつか?」
フラン「そんなんじゃない。 ……まあいい、その内ひょっこり出てくるだろ」
グルナッシュ「グロロって、フランと同じ地方のロゼ品種だよね?」
フラン「ああ。行きたそうにうずうずしてたから連れてきたんだがな。途中でふらりと何処かに行ってしまった」
マスベリ「おいおい」
フラン「いつものことだ。気が向いたらまた戻ってくる」
グルナッシュ「お料理一人分、避けておこっか。じゃあ、まずは誰のワインから飲む?」
ジン「もう開けちまったぜ! 俺からでいいか?」
マスベリ「いいよいいよー、ついじゃってくれー」
ジン「ってか、今更だけどな、俺は白ワインを作りたかったわけで、別にロゼを作るつもりはなかったから、こうやってロゼとしているのは変な感じがするぜ」
ブラック「でもそれで売れてるんでしょ? 結果オーライじゃない」
ジン「けどよお……」
ブラック「ぐちぐち言わないの! ほらほら、グルナッシュにも、さくらちゃんにもついじゃってー!」
さくら「ありがとうございます」
マスベリ「よーし、んじゃま、乾杯は日本風でやろう!」
サンソー「日本風?」
グルナッシュ「そういうのがあるの?」
マスベリ「おう! まずは乾杯の前に長々とした挨拶が入ってだな、今日はめんどくせえから割愛するけど、その後みんな立ち上がって、カンパーイの合図で、グラスをぶつけ合うんだ」
サンソー「割れちゃうよ!」
マスベリ「今日は丈夫なグラスなんだろ? よゆーよゆー。宴会のおっさんらはじゃんじゃんぶつけ合ってるぜ! んで、その場にいる全員とぶつけるまで、飲んじゃダメなんだ」
フラン「グラスをぶつけ合うのは古代ローマからある風習だが、そんな風に定着しているのか……」
ブラック「ベーリーAの言うことは、たいてい誇張されてるから、鵜呑みにしちゃダメだからね……」
マスベリ「そんで持って、飲むときは一気!」
サンソー「一気に??」
グルナッシュ「それはあんまり……」
マスベリ「そうやって男気見せんだよお!」
さくら「なんか、ダサいです。一気飲みのどこがかっこいいのかわかんない。どうせ後で飲み過ぎて吐くのに」
マスベリ「う……」
フラン「勢いで華のないことをするな。それに、じっくり味わってこそのワインだ。一気飲みなんて、作り手に失礼だろ」
マスベリ「でもサンジョベーゼのおっさんも、ワインはグイグイ飲むものだって言ってたぞ」
グルナッシュ「まあ、飲み方なんて人それぞれなんだけれどね……。僕は楽しいならなんでもいいけれど。でもさ、今日はせっかくのお花見なんだから、ゆっくり味わいながら、親睦を深めるっていうのもいいんじゃないかな」
サンソー「そうだね、このメンバーで集まることもなかなかないし。ベーリーAの言う乾杯の仕方は別の機会に取っておいて、今日は馴染みのあるやり方で乾杯しよう!」
ブラック「あんたたちの馴染みのやり方って?」
サンソー「こうやってグラスを掲げて、お互いに目を合わせて『サンテ』、もしくは『チンチン』って言うんだ」
マスベリ「ちん……」
サンソー「ん、どうかした?」
さくら「日本ではサンテの方が人目を気にしなくていいと思う」
ブラック「チン……は流石にここじゃあ大声で言えないよねえ」
マスベリ「俺は別に構わねーぞ」
ブラック「さくらちゃんがいるでしょ!」
マスベリ「うーい」
サンソー「ん……よくわからないけれど、サンテって言うことにしよっか。合図は、フラン、お願いしてもいいかな」
フラン「ああ」
グルナッシュ「じゃあ、お願いします」
フラン「(咳払い)今日、こんな形で集まり、花見ができることを嬉しく思う。 我々の健康と末長い繁栄を祈って。(ジンの「長いぞ!」というヤジが入る。)……というのは建前で腹が減ったから早く食べようサンテ!!」
全員「サンテ!」
グルナッシュ「……あのさ、さっきから気になってて、フランの後ろから視線を感じるんだけれど」
サンソー「そう言えば、黒い人影が、じっとこっちを見てる……」
フラン「はあ。やっときたか。もう始めてしまったぞ」
グロロ「フラン……」
フラン「ほら、お前の分のワインだ」
グロロ「メルシー……」
ブラック「えっと、あんたがグロロ?初めまして、……って、もうどこか行っちゃったわー」
マスベリ「全身、真っ黒だったな。あいつ、本当にロゼ品種か?」
フラン「グロロっていうのはカラスという意味だ。それを意識しているのかわからんが、ああして黒い服ばかり身につけている。ワインはもともと赤を作っていたが、えぐみがひどかったため、風味を抑えたロゼを作り始めたって話だ。同じ地方の出だからな、気にかけてやったら懐かれてしまった」
クイーン「懐かれたって……汗」
さくら「変わった方もいるのですね」
マスベリ「なあなあ、俺もうワイン飲んじまったんだけど、次誰の開けんの?」
サンソー「じゃあ、僕、開けまーす!……と、あ!!」
グルナッシュ「あ! ワインが!」
ジン「およよ。サンソーが誤って倒したワインボトルが、転がっていっちまったぜ。ここ、やや斜面になってるからな」
サンソー「うわーん、待ってよー」
マスベリ「追いかけるサンソーをよそに、ボトルはころころと……」
クイーン「おまけにサンソーまでつまづいて転んじゃってる。あーあ、仕方ないの……(追いかける)」
グルナッシュ「大丈夫? サンソー(駆け寄ろうとする)」
サンソー「ふにゃー」
アーリー「あんた、大丈夫? 立てる?手を貸そうか?(手を出す)」
サンソー「あ、ありが……」
アーリー「なーんてな。どんくさ。大の大人が、何にもないところで転んでやがる上に、半べそになってるー。かっこ悪」
サンソー「へにゃ……」
グルナッシュ「ちょっと、そんな言い方ないでしょ? しかも差し出した手を引っ込めるなんて、意地悪だよ」
アーリー「貸そうか? って聞いたけど、貸してやるなんていってないしー」
ブラック「ちょっとちょっとちょっと、アーリーちゃんじゃないのさ。相変わらず口が悪いったら」
アーリー「だーれがアーリーちゃんだクソったれ。俺はキャンベルアーリーだ。ちゃん付けするなつってんだろ。口縫い付けるぞ」
ブラック「ヤダもう、態度だけは立派なんだから。でもね、さっきのサンソーへの口の聞き方は見逃さないよ。ちゃんとあやまんなさい」
アーリー「やーだね」
ブラック「あやまんなさい!」
アーリー「うっせ、おかまのクセにー」
ブラック「だまらっしゃい!!」
グルナッシュ「まって、落ち着いて二人とも!」
サンソー「二人とも、喧嘩しないで……」
フラン「(遠くから)なんだ、あいつら喧嘩始めたのか」
マスベリ「まじかよ。ちょっと止めに行ってくるわ」
さくら「喧嘩なんて、はしたないのです」
ジン「何やってんだ、あいつら……俺もいく」
フラン「あまり騒ぎにならないうちに収めてくれ。俺は残る。……ん、なんだ、グロロ」
グロロ「これ、美味しそう」
ジン「って、おい!みんなが離れたすきについばみに来るとか、お前はマジでカラスか!」
グロロ「カアー」
フラン「手でつまむな。はしたない。ほら、フルシェットがあるから使え……」
マスベリ「いいから、てめーら、落ち着けって……」
アーリー「だーれが謝るかってんだ。俺なーんにも悪くねーし」
ブラック「あんたのその口の聞き方、前から気に食わなかったんだよ! 人に対する態度ってもんを一から叩き込んでやる!!」
グルナッシュ「落ちつこーか、ブラッククイーン。なんかキャラ変わってるよー……」
サンソー「僕のために喧嘩しないでー!」
ジン「……なんなんだ、これ」
巨峰「すみません、うちのアーリーが」
ジン「うおお!? 突然後ろに立つなよ! ってか、でかいなお前!!」
巨峰「自分のことは巨峰、と呼んでください。すみません、うちの人がとんだご迷惑を。今、回収しますので」
ジン「か、回収って」
アーリー「こんにゃろ、くたばれブラック女王が!」
巨峰「はいはい、そこまでにして、帰りましょう。ね」
アーリー「な、巨峰? ちょ、ちょっと待てよ、どこ掴んでんだよ。首根っこは引っ張るなって教えただろうが!おーい!」
巨峰「皆さん、すみません。うちの人が、大変ご迷惑をかけたようで。連れて帰りますので、どうか続きを」
アーリー「おい、てめ、巨峰!こんちくしょー! 何すんだよー! 今日こそあのムカつくブラック女王に一発かましてやろうと思ってたのにー(引きずられていく)」
マスベリ「嵐が、去ったな」
グルナッシュ「なんだったの、一体……」
フラン「おーい、落ち着いたのなら戻ってこい。早く来ないと、グロロが全部食ってしまうぞ」
さくら「すでに、もう半分以上が空に……」
マスベリ「なんだとーう!? そうはさせるかー!(走っていく)」
サンソー「……なんだか、ごめんなさい。僕のために」
ブラック「はあ……あんたが悪いわけじゃないんだから、謝んないの。頭に血が上ってた私も悪いんだから。はい、もー忘れて、続きやりましょっ、ね?」
サンソー「う、うん。そうだね」
ミモレ「あー、いたいたー。さっくらー」
さくら「あ、ミモレット姐さん」
ジン「なんだなんだ」
ミモレ「もー、こんなところにいたの? 探したんだからあ。一緒に飲むって、約束してたでしょーが!」
さくら「すみませんなのです。約束の時間より早く来てしまったから、油を売ってました」
ミモレ「ったくう。許しちゃる!」
さくら「恐れ入ります、姐さん」
チェダー「あ、あの、皆さん、ワインの人、なんですよね?」
ゴーダ「もしよければ、私たちもお花見にきたんですけど、ご一緒してもいいですか?」
ジン「(口笛)」
マスベリ「わーお」
グルナッシュ「お花が、増えたね」
サンソー「いいよいいよー! 一緒に飲もう!」
ブラック「急に元気になるじゃない。さっきまで落ち込んでたのに」
グロロ「フラン……女の子が……」
フラン「お前も、何いきいきしてるんだ、グロロ。いいから、ここで大人しくしてろ」
サンソー「じゃあ、改めて乾杯しよう! 満開の桜と、素敵な出会いに!」
全員「サンテ!」