【カリニャンとサンソー】
サンソー「(走っている)はっはっはっ……」
カリニャン「……ん?」
サンソー「おーい、カリニャーン、グルナッシュー!」
グルナッシュ「あ、サンソー。どうしたの?走ってきて」
サンソー「特に用事はないけど、二人を見つけたからッ(転ぶ)」
カリニャン「……。」
グルナッシュ「だ、大丈夫?サンソー」
サンソー「ッ……。(起き上がる)い、痛くないよ(泣きそう)」
カリニャン「はあ……。ほら(手を差し出す)」
サンソー「う……(涙をぐっとこらえる)ありがとう(手を取る)」
グルナッシュ「くす」
カリニャン「なんだ」
グルナッシュ「ううん。なんでもない」
サンソー「あ、そうだ、二人に話したいことがあるんだ。あのねー……」
グルナッシュ「僕たち南仏の品種は、とても仲がいい。朗らかで、パワフルで、スパイシーで、楽天的。まさに、土地柄を象徴するような太陽みたいに、みんな明るい。そして、助け合うことを、忘れない。僕たちはいつだって、みんな仲良しだ」
サンソー「そういえば、カリニャン、また活動地域広げたんだって?今度はオーストラリア?南アフリカ?」
グルナッシュ「さっき、ちょうどその話を二人でしていたんだよね。生産量も増えてきているし、調子いいんじゃないって」
カリニャン「まあ、グルナッシュには勝てないがな」
グルナッシュ「未だにカリニャンには仕事量に制限がかかっているからね。仕方ないよ」
サンソー「でも、嬉しいな。カリニャンのこと、認めてくれる人がいてくれて。ファンもお仕事も、どんどん増えるといいね!あ、勿論、僕がカリニャンの第一ファンだからね。そこは譲らないよ。カリニャンのこと、一番にわかっているの、僕だから!」
グルナッシュ「そーなの?」
カリニャン「勝手に言っているだけだ」
サンソー「ええー?」
グルナッシュ「ふふ。嬉しそうだね」
カリニャン「あいつが、ってことだろ?」
グルナッシュ「君もだよ」
カリニャン「……」
グルナッシュ「サンソーとカリニャンはまるで正反対のような存在だ。だけど、正反対だからこそ、お互いを補い、支え合って強くなれる、そんな関係が成り立つこともある」
グルナッシュ「最近サンソーは、あまり泣かなくなった」
《回想》
サンソー「ぐ、ぐす……」
カリニャン「……」
サンソー「ぐす……」
カリニャン「……お前、なんで泣いている」
サンソー「ふえ?」
カリニャン「なんで泣いてるんだって、聞いているんだ」
サンソー「……女々しい奴だって、からかわれた。僕、男の子なのに」
カリニャン「そんな風に泣いていると、もっと言われるぞ」
サンソー「でも……」
カリニャン「男なら言い返すくらいしてやれ」
サンソー「……したいけど、できない。僕には……ぐす」
カリニャン「……取り敢えず、泣くのをやめてくれ。こんなところでメソメソされちゃ、こっちが困るってんだ」
サンソー「僕だって……泣きたくない……でも、……止まらなくて」
カリニャン「……(ため息)わかった。これをやる」
サンソー「……なあに」
カリニャン「チョコレートって奴だ。貰ったけど、俺は要らないから、お前にやる」
サンソー「……要らないの?」
カリニャン「ああ」
サンソー「……ありがとう。(包み紙を開けて)ちょっと、溶けてる」
カリニャン「文句言うな」
サンソー「……(二つに割って)半分こ。君も、食べよう」
カリニャン「だから俺は……」
サンソー「君も、泣きそうな顔しているから。一緒に、食べよう」
カリニャン「……俺は、別に」
サンソー「僕も、泣き止むから。ね」
カリニャン「……(受け取る)」
サンソー「……君は、ずっとここにいるの?みんなと一緒にはいないの?」
カリニャン「……俺は、あまり好かれていない。だから、一緒にいない方がいい」
サンソー「どうして?なんで嫌われているの?」
カリニャン「……お前は、俺のこと、怖くないのか?」
サンソー「なんで?君は優しいよ。さっきチョコレートもくれたし」
カリニャン「……」
サンソー「どうしたの」
カリニャン「優しいなんて、はじめて言われた」
サンソー「ほんと?じゃあ、僕がいっぱい言ってあげる。君は、とっても、優しいよ!」
カリニャン「よしてくれ。……俺はそんなんじゃない」
サンソー「……明日も、ここにいる?」
カリニャン「かもな」
サンソー「じゃあ、来てもいい?」
カリニャン「……好きにしろ」
サンソー「やった。じゃあ、また明日ね」
カリニャン「約束はできないけどな」
サンソー「カリニャン♪」
サンソー「カリニャン!」
サンソー「カーリニャン」
サンソー「カリニャン?」
カリニャン「まったく、飽きもせずに、俺のところへ通いやがる」
サンソー「カリニャン……」
カリニャン「だいたいいつも機嫌がいい。そうでなければ泣いている」
サンソー「君は、優しい… …だよ」
カリニャン「そう言う風に言うのは、あいつだけだ」
サンソー「今日も、カリニャン、いるかなー?……あ」
ベト病「う……あ」
サンソー「あ、」
サンソー「だ、大丈夫、怖くないよ……僕は……」
(これは相手に言っているのか、自分に言い聞かせているのか。)
♪(銃声)
サンソー「はっ……!」
ベト病「ぐ……」
カリニャン「それ以上近づくな。二発目を喰らいたくなければ、俺の前から失せろ」
ベト病「……ッ」
サンソー「カリ、ニャン」
カリニャン「ああ」
サンソー「なんで、撃ったの」
カリニャン「……お前がまた、泣くんじゃないかと、思って」
サンソー「僕は、大丈夫だよ。それに、さっきの、ダウニー・ミルデュー(ベト病)でしょ。僕、耐性があるから、平気だって……」
カリニャン「……お節介だったわけか」
サンソー「そうじゃなくて……。カリニャンが来てくれたの、嬉しいよ。でも、僕だって、強く、ならなきゃ、いけないから……」
カリニャン「そう言うセリフは、そんな顔で言うもんじゃない」
サンソー「……泣いてない。泣いてない」
カリニャン「……そうだな」
《回想終了》
カリニャン「変わらないものなどない、全ては流転する、か」
グルナッシュ「なーに?」
カリニャン「あいつは確かに変わった。……少し、な」
グルナッシュ「ふふ。なんか、子供の成長を見守る父親みたいだね」
カリニャン「そう聞こえたか?」
グルナッシュ「言い方だけじゃなくて、全部が、そう」
カリニャン「あいつと一緒にいれば、そうなるさ」
サンソー「ちょっと、二人でなんの話?僕も混ぜて」
カリニャン「さてと、話の続きは、また今度だ、グルナッシュ」
サンソー「ええ〜? なにそれ、僕にナイショの話〜?ねえ、ちょっと〜」
グルナッシュ「ぷっ、ふふふ、あはは」
カリニャン「おいおい、そこで笑うな」
サンソー「ひーどーいー!僕たち、隠し事なしの仲でしょー?ねえ、ねえ、ちょっと〜」
end